2006年6月27日 teamactive

人と音楽を結ぶ職人

2006年6月号 音遊人より

(株)チームアクティブ 代表取締役 河原真澄さん・他

音楽に関わっているのは、舞台で演ずる人だけではない。
華やかなショータイムを、陰でしっかりと支える人たちもいる。
ミュージシャンは演奏に専念する。
そのために、ローディーという職業がある。
ミュージシャンの楽器をケアし、よい音作りのサポートをする人たちだ。
ローディーは、ミュージシャンと同じように音楽を理解し、彼らの求めるものを提供する。
日本型ローディーを作りあげたチームアクティブ。
今回はその活動の現場を訪ねてみた。

ステージに登場できる唯一のサポーター

ライブで、曲の合間にミュージシャンにギターを手渡す人がいる。さりげなく渡す情景は、楽しいパフォーマンスの一部かのようだ。それはローディーの仕事である。

辞書で「ローディー」という単語をひくと、「歌手などの地方巡業に随行して、公演の準備・進行に携わる者」(『大辞泉』)と書いてある。思わず、楽器を運ぶ人を想像した。

日本には、かつてボーヤという仕事があった。ミュージシャンの楽器を運び、セッティングし、そして雑用もこなす付き人のことだ。
「欧米では、ローディーって、ツアーに出るスタッフ全員を指す言葉なんですよ。ひとつの楽器に一人のテックがつくんです。日本では制作費の問題もあって、ひとつの楽器だけじゃなくていくつもの楽器を一人で担当できるマルチな人間が求められたんです。」
説明してくれたのはチームアクティブ社長の河原真澄さん。

「ローディーとは、ミュージシャンのすべてをサポートする人。テックとは、より専門的に楽器のメンテナンスやチューニングができる人。そんなふうに言葉を使い分けています。ほかにクラフトマンというのもいて、ギターを製作できるほどの技術と知識がある人のことを言います」

欧米のように専門的な楽器の知識を持ちつつ、演奏の場以外でも支える。その結果、ミュージシャンのすべてをケアするという日本型のローディーが確立した。

ボーヤからローディーへと、二十年をかけて仕事の内容は徐々に移ってきた。しかし、奉公的なボーヤの名残が薄れていくまでには、すこし時間がかかったようだ。

「地方に仕事で行っても、報酬は弁当と二千円ということもありました。待遇のひどさは長くは続かなかったけれど、これではいけないって。自然にボーヤっぽいことをやっている人が集まって、仕事となり、組織になっていきました。」

そして現在、ローディーなしではライブが成立しないほど、その存在は大きくなった。

三月の末、都内で行われた宇都宮隆さんのライブ会場へ、リハーサル前にお邪魔した。そこで、この道二十三年の大竹茂美さんに会った。宇都宮さんのツアーに同行して約十年になる。普段はオフィスワーク中心だが、このツアーだけは毎年参加するのだと言う。
「ミュージシャンが演奏に専念できるように、音響などの仕事は全部ローディーがやるようになりました。年をとっても、ローディーとして呼んでくれる限りは参加したいですね。ミュージシャンと一緒にステージを作りあげていく作業はローディーの基本であり、また大きな喜びでもあります」

ローディーは次の段階に進もうとしている。

「おもしろくて、楽しくて、かっこいいステージを作るには、日本人らしいキメの細かさも必要です。ローディーがステージに見えていないようで見えている、日本古来のわび・さびの精神はサポートや演出にも出てくるんです。」

この仕事は、誰かが見ている

「ミュージシャンと同じくらい音楽を理解していないと、彼らが何を求めているのか、わからない」

ミュージシャンとの結びつきを強調するのは三島陵太郎さんだ。ローディーになったのは、二十歳のときだった。ミュージシャンになる夢を抱き、勉強だと思って始めた。よい音を作り上げるために、神経質にノイズを処理する。こういった小さなことの積み重ねがローディーとしての喜びにつながる。それが快感となり、プライドに結びつく。

ローディーの仕事を始めて三、四年目のときだ。自分の仕事を誰かが見ていると、実感した瞬間があった。

ある地方での公演時のこと。ライブが終了して、警備員に注意されても帰らない女性のお客さんがいた。三島さんたちは撤収作業を始めていた。そのとき、「スタッフの皆さん、どうもありがとうございました」と言いながら彼女が頭を下げた。

「ライブが終わって、拍手が起こる。そのうちの何人かは、私たちに向かって拍手してくれているんだよ」
隣で河原さんがそう話すと、三島さんがうなずいた。

「演奏の技術もその域に達していなければ、本当はプレイヤーの悩んでいることがわからないんです。自分がその域にいるかといえば、まだです。そこに達したいな、と思っているんですが」

そこまでの技術と知識を目指すローディー。ミュージシャンとの違いが気になった。

「楽器の知識などは、同等に近いかも知れません。ただ、創造力はミュージシャンならではのものでしょうね」

ミュージシャンと一緒にお客さんを満足させたい

ローディーの一番の仕事は、もちろんミュージシャンを支えることである。そんなローディーに向いているか、いないかは、ギターをミュージシャンに渡す動作ひとつにも表れるという。

「よいローディーの条件は、ミュージシャンから信頼されていることでしょう。だって、ミュージシャンの命である楽器を預けてくれるんですよ。社長である僕の言うことを聞かなくてもいいから、ミュージシャンの言うことに耳を傾ける。そこで信頼が築ければ、よいローディーだと思います。」

求められることは演奏面や楽器の知識だけでなく、メンタル面に及ぶこともある。河原さんは続けた。
「その日のコンディションによって、音がよかったり悪かったりする。たとえば、ボーカルの喉の調子が悪ければ、水を出してあげる。直接楽器とは関係なくても、それはローディーの仕事です。そこに気づかなければ意味がない。」

体調も含めてサポートすることで、よい音作りにつながっていく。ただし、ローディーがミュージシャンのイエスマンでもだめだとも加える。
「自分のスタイルを持ちながら、すべてにおいてミュージシャンを中心に考え、気を遣う。一方で自分もライブに参加しているという自覚も必要です。次の公演のために、ミュージシャンと一緒に悩んだりもする。それが大切だと思っています」そう話す三島さん。よい音作りを通じて、アーティストもお客さんも満足させたいという気持ちが伝わってくる。

話を聞き進めるうちに、今度ライブに行ったら、ギターを渡す人に注目したくなってくる。舞台裏にいる人たちに向け、拍手をいつもより大きく鳴らしたいと思う。

河原さんの音楽にかける思いが印象的だった。

「音楽は絶対になくならないし、それに付随する裏方の仕事もなくならない。技術が発達して、レコードや CD だけでなく、ダウンロードして音楽を聴く方法も選択できる時代になった。でも、技術がどんなに発達しようと、生の演奏には勝てない。生の音楽を支えていくのは、生の人間に他ならないと思っています」

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